特発性拡張型心筋症(Idiopathic Dilated Cardiomyopathy、以下DCM)は、心臓の筋肉(心筋)が異常に拡張し、収縮力が低下する病気です。この結果、心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を送り出せなくなります。原因が特定できない場合に「特発性」と呼ばれますが、遺伝的要因や自己免疫異常、ウイルス感染などが関与している可能性が指摘されています。
1. 症状
DCMの症状は、心臓のポンプ機能の低下によって現れます。主な症状は以下の通りです。
- 息切れ・呼吸困難:運動時や横になったときに悪化することが多い。
- むくみ(浮腫):血液の循環が悪くなり、特に足やくるぶしが腫れる。
- 疲れやすい・倦怠感:心臓のポンプ機能低下により、十分な酸素が全身に供給されなくなる。
- 動悸・不整脈:心臓の異常なリズムが生じることがある。
- 胸の痛み・圧迫感:血流不足により狭心症のような症状を引き起こすことがある。
- 意識消失(失神):重度の不整脈が原因となることがある。
2. 原因
特発性DCMは、原因が明確でないものを指しますが、以下のような要因が関与している可能性があります。
- 遺伝的要因:DCM患者の約20~50%は家族歴があり、特定の遺伝子変異が関係していると考えられている。
- ウイルス感染:ウイルス性心筋炎が発症の引き金となり、心筋がダメージを受ける。
- 自己免疫異常:免疫系が誤って心筋を攻撃し、炎症を引き起こす可能性がある。
- 代謝異常:糖尿病や甲状腺疾患などが心筋機能に影響を及ぼす。
- 毒性物質・薬剤:アルコールの過剰摂取や一部の抗がん剤が心筋にダメージを与える。
3. 診断
DCMの診断には、以下のような検査が行われます。
- 心エコー(超音波検査):心臓の形や動きを確認し、拡張の程度を評価する。
- 心電図(ECG):不整脈の有無や心筋の異常を調べる。
- 胸部X線:心拡大や肺のうっ血の有無を確認する。
- 血液検査:心筋にダメージがあるかどうかを調べる(BNP、NT-proBNPなどの指標)。
- MRI・CT:心筋の詳細な構造や線維化の有無を確認することがある。
- 心筋生検:一部のケースでは、心筋の組織を採取して病理検査を行う。
4. 治療
DCMの治療は、症状を管理し、心機能の低下を抑えることを目的としています。
- 薬物療法
- β遮断薬(カルベジロール、ビソプロロール):心拍数を抑え、心臓の負担を軽減。
- ACE阻害薬・ARB(エナラプリル、ロサルタン):血管を広げて血圧を下げ、心臓の負担を減らす。
- 利尿剤(フロセミド):体内の余分な水分を排出し、むくみや息切れを軽減。
- 抗不整脈薬(アミオダロン):不整脈のリスクを抑える。
- 抗凝固薬(ワルファリン、DOAC):血栓予防のために使用されることがある。
- デバイス治療
- 植込み型除細動器(ICD):致死性不整脈を防ぐために使用。
- 両心室ペースメーカー(CRT):心臓の同期を改善し、心機能を補助。
- 生活習慣の改善
- 塩分制限:むくみや高血圧を防ぐために1日6g以下を目標にする。
- 禁酒・禁煙:アルコールやタバコは心機能を悪化させる可能性がある。
- 適度な運動:主治医の指導のもとでウォーキングなどの軽い運動を行う。
- ストレス管理:ストレスは心臓に負担をかけるため、リラックスする習慣を持つ。
- 重症例では心臓移植 心不全が進行し、他の治療法では効果が得られない場合、心臓移植が選択されることがある。
5. 予後と経過
DCMの予後は個人差がありますが、適切な治療によって病状を安定させることが可能です。ただし、進行すると心不全や重度の不整脈を引き起こし、生命を脅かすこともあります。定期的な通院と検査を継続し、症状の変化に注意することが重要です。
6. まとめ
特発性拡張型心筋症は、心筋が拡張して心臓のポンプ機能が低下する病気で、息切れやむくみ、疲れやすさなどの症状を引き起こします。明確な原因は不明ですが、遺伝的要因やウイルス感染などが関与している可能性があります。治療は薬物療法やデバイス治療を中心に行われ、生活習慣の改善も重要です。定期的な診察を受け、医師の指導に従うことで、病状をコントロールしながら生活の質を維持することができます。
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